ティルト・シフトレンズ Canon TS-Eレンズ
【ティルト・シフトレンズとは】
通常のカメラレンズがレンズの中心軸(光軸)が不変なのに対し、レンズの光軸と撮像面を意図的にずらしたり光軸を傾けたりすることによって結像をコントロールすることができるレンズです。
4×5(シノゴ)などの大判カメラでは、基本的にはレンズにはフォーカシング機構がなく、蛇腹を伸縮させてピントを調節する構造のため、そこにこのティルト・シフトの機能を持たせています。大判のカメラでは被写界深度が相対的に浅いためパンフォーカスを実現するには不可欠の仕組みですが、一眼レフ用にもいくつかのレンズがあります。
私は写真システムをキヤノンで揃えていますが、キヤノンからは「TS-Eレンズ」群としてラインナップされています。
◆左より TS-E24mm F3.5L、TS-E45mm F2.8、TS-E90mm F2.8 <拡大します>
上の3点は旧ラインナップです。現在は24mmが新タイプとなり、より広角の「TS-E17mm F4L」が出ているため4種類になっています。
上の写真を撮ったときは3本持っていましたが、今は24mmを新型に替え、45mmを手放したため、現在私の持っているTS-Eレンズは2本です。
なお、一眼レフ用ティルト・シフトレンズはニコンからは「PC-Eニッコール」シリーズとして 24mm、45mm、85mmがラインナップされています。
また、一眼用とはいえ、オートフォーカスをさせづらい機構・機能(まず、レンズ全群を移動させるためのパワーがモーターに必要にとされることと、ピントを合わせる判断がケースバイケースであるためオートにしづらい)のため、両メーカーともマニュアルフォーカスでしか出していません。
【シフトとは】
カメラを被写体に斜めに向けると遠近法が影響してしまうため、例えば建築物など水平・垂直線でできている被写体を撮ると違和感を覚えます(上向きで撮ると先すぼまりになる)。このとき、レンズの光軸と撮像面を意図的にずらして逆の歪みを発生させ、結果として像の歪みを補正することができます。これがシフトです。
(レンズの説明において「歪み」という言葉は、非常に限定された意味になるのでむやみに使うと誤解をまねくのですが、上で使った「歪み」はパースを指す一般的な用法です)
◆シフト概念図
一番使用される例は建築物の写真でしょう
建築物以外にも、物(ブツ)撮りの世界においては使用頻度が高いレンズです。
例えば
- 縦長のもの(ボトル、箱、缶等)を見下ろす場合通常のレンズでは下がすぼまって写るためそれを防ぐ
- 鏡などを真正面から撮影する場合にはカメラや撮影者が写るためそれを防ぐ
などあります。
◆鏡を正面から撮る場合の例
また、ポートレイトにおいても、全身撮りで見下ろしの場合には脚が先すぼまりになり短足になってしまいますが、シフトをかけることで脚がスラッとなります。風景写真でも滝など見上げ(見下ろし)で撮ると先すぼまりになる(この場合、そのほうが迫力が出るとも言えますが)のを防ぎ自然な形状に撮ることができます。
なお、このシフト機構は大判カメラが発祥ですので、その構造上 -- レールの上にボディ(後枠とも呼ぶ)とレンズボード(前枠とも呼ぶ)が乗り、両者を蛇腹が繋ぐ -- 、上へのシフトを「ライズ」、下へのシフトを「フォール」、「シフト」は左右の移動のみに使うのが正しい語法なのですが、 一眼レフの世界ではまとめて「シフト」と呼ぶようになってきました。
もっとも私は大判カメラを持っておりません(笑)
【ティルトとは】
また、ティルト機構ではレンズを斜めにすることで光軸を傾け、それによって、ピントの合う範囲をコントロールすることが可能になります。これは、「撮像面とレンズの主面とがある1つの直線で交わるとき、ピントがあう物面もまた同じ直線で交わる」という原理によるもので、発見者の名をとって「シャインプルーフの原理」と呼ばれています。
◆ティルト概念図
図では「1点で交わる」と表記していますが、実際の交わる点はこちらから向こうに向かって直線上になっているため「直線上で交わる」が正しい表現です
通常、面状の被写体に対し斜めにカメラを構えると、ピントはその一部にしか合いませんが、レンズのティルト角を調節することで全面にわたるピント(パンフォーカス)を得ることができたり、逆に被写界深度を浅くすることができます。
パンフォーカスの例としては、平たくて奥行きのあるものの全面にピントを合わせる必要のある商品撮影では必需の機能です。よく誤解されますが、絞って得られるような「画面全体のパンフォーカス」を得ることはできません。
絞り値をごく大きくすると「小絞りボケ(回折ボケ)」が発生し、せっかくピントが深くなっているにも関わらず全体的にわずかなボケが発生するのですが、ティルトを使うことによって小絞りボケが発生しない中程度の絞りでもパンフォーカスが実現できます。
もっともこの写真のようにwebで使う程度の解像度の場合では小絞りボケの影響はわずかですので、思い切り絞っても問題はないでしょう。
逆ティルトでは、ありえないほどのぼかしを非ピント領域に発生させますので、風景写真がまるでミニチュアを撮ったかのような仕上がりになり、いわゆる「ジオラマ風写真」を楽しむためのレンズとして一般の方にも認知されてきたようです。
もっとも最近では、コンデジや入門向け一眼デジカメではソフト処理でジオラマ風に出力してしまうものが出てきたため、わざわざこんな高い(しかもマニュアルフォーカス)レンズを購入しなくても簡単に楽しめるようになってきました。
なお、このティルトも大判カメラの世界では、上下のティルトのみ「ティルト」と呼び、左右のティルトは「スイング」と呼んで区別しています。
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コメント
1. こちらのwebでは説明図がきちんと置かれ、読んで参考になります。
2. シフト概念図 について。
a. (左)--->点線・”カメラの軸” を 1点鎖線・”光軸” と置き換え、
b. (右)--->レンズの中心に 1点鎖線・”光軸” を追加すると、
シフトの概念が理解し易くなると思います。
3. 見上げ撮影とシフト(ライズ)撮影の違い の写真と図について。
a. (右)--->レンズの中心に 1点鎖線・”光軸” を追加するとよい、
b. (中央)--->(左)と置き換えるとよい、
4. 被写界深度変化の説明図 について。
a. ノーマル、ティルト、逆テイルトにつき、机上に並べた多くの食べ物 や キーボードなどの被写体の実写で、説明図に添えると、理解し易くなると思います。
投稿: 田中 | 2019年5月20日 (月) 22時38分